日本の難関大学の象徴である東の東大と西の京大。2017年の両大学合格者の出身校を都道府県別に見ると、合格者数の1位は人口そのものが大きい東京です。

ところが、卒業生1,000人あたりの合格者数で見ると、トップはなんと約22人の奈良。一方で、有名進学校がひしめく東京は約13人で3位にとどまっています。これはいったいどういうわけなのでしょうか。名門高校に関する著書も多い教育ジャーナリスト・おおたとしまささんにお話を聞いてみました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/榎本壮三

西大和学園、東大寺学園の2校だけで東大京大合格者180人超

近年、奈良の高校の東大京大合格実績が伸びてきていることは、西大和学園の台頭と切っても切れない話です。西大和学園は1986年に設立された新しい学校。同じような時期に設立されて進学実績を飛躍的に伸ばしている学校に千葉の渋谷教育学園幕張がありますが、西大和学園は渋谷教育学園幕張とは比較にならないほどの猛勉強で知られていました。それこそ、夜も真っ暗になるまで生徒に勉強をさせるほどでした。

でも、いまはちがいます。実績を挙げて知名度も高まりましたから、教養を伸ばすことに力を入れるなど、教育の幅を広げる方向に徐々にシフトしています。私立校というのは、設立当初はどうしても進学実績を打ち出して存在感をアピールしていく必要があります。いくら理想の教育理念を掲げたところで、設立してすぐに生徒を集めるのは簡単ではありませんからね。西大和学園は見事に進学実績を残し、「東の渋幕、西の西大和」と呼ばれるような学校になりました。

また、奈良には西大和のほかに東大寺学園という有名進学校があります。こちらは西大和学園とは対照的に1926年に設立された伝統校。卒業生の進学先のほとんどを東大、京大、医学部だけで占めるという優秀な学校です。西大和学園、東大寺学園、このふたつの学校が奈良にあることが非常に大きい。

2014年から2018年までの5年間における西大和学園の東大京大合格者数は平均89.8人。そして、東大寺学園は平均92.0人。これがどういう数字かを示すため、千葉と埼玉を例に挙げてみましょう。直近5年間における東大京大合格者数は千葉県が平均175.8人、埼玉が132.2人です。なんと、千葉県全体、埼玉県全体の数字を西大和学園と東大寺学園の2校だけで超えているのです。しかも、都道府県別の人口では奈良は千葉や埼玉の4分の1以下。世代人口あたりの東大京大合格率で見た場合、奈良がどれほど突出したものになるかは容易に想像できるでしょう

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「からくり」はあるものの奈良の環境は名門校にふさわしい

では、奈良に住めば子どもの頭が良くなるのかというと、残念ながらそうではないかもしれません。というのも、僕の推測ではありますが、西大和学園と東大寺学園の生徒の多くは他県に住んでいるからです。関西は関東と比べると狭いですから、大阪、滋賀、京都、奈良、兵庫、さらには和歌山や三重も通学圏と言えます。

しかも、大阪には突き抜けた進学校はありません。京大の進学実績では公立の北野が頑張っていますが、全体のレベルとしては兵庫の灘と甲陽学院に西大和学園、東大寺学園を加えた「トップフォー」にはかなわない。そうなると、私立校を志望する生徒はトップフォーに行きます。人口が少ない奈良にそういう優秀な生徒が集まるのですから、人口あたりの東大京大合格率が跳ね上がるのも当然というわけです。

とはいえ、奈良の環境が学力アップに貢献していることも十分に考えられます。某引っ越し業者の調査によると、奈良は過去数十年にわたってピアノ普及率1位を誇ってきた「教育県」なのだそう。2017年に文科省がおこなった調査によると、中学生の通塾率も全国トップでした。また、2017年の総務省の発表によると、奈良は共稼ぎ夫婦の割合が最小です。つまり、既婚女性が専業主婦である率がもっとも大きいということになります。

これは、いわゆる教育ママが多いということではありません。妻が主婦業に専念できるほど、夫が高収入だということです。2017年に厚労省が発表した都道府県別平均年収では、奈良は470万400円で15位と比較的上位にあります。東京や愛知、神奈川、大阪など、年収が高い代わりに生活費も高い大都市が上位を占めることを考えれば、奈良は比較的裕福な家庭が多いと考えられます。世帯年収と子どもの学力の相関性は、いまさら語るまでもないでしょう。周囲の他県から通ってくる子どもたちのほか、奈良の子どもたち自身も優秀な子が多い可能性もあるはずです。

しかも、奈良はいい意味で田舎です(笑)。子どもが勉強に励むにはうってつけなのではないでしょうか。じつは、東京のように繁華街のすぐそばに名門校がある都市は世界的には珍しいものです。世界の有名校はだいたい郊外にある。イギリスの調査では、ちょっと郊外にある1学年180人くらいの男女別の学校の生徒がもっとも学力が高いということが示されています。西大和学園や東大寺学園が全国的な進学校になり得たのも、奈良の自然豊かな環境が根底にあったのかもしれませんね

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おおたとしまさ

新潮社(2018)

【プロフィール】
おおたとしまさ
1973年10月14日生まれ、東京都出身。教育ジャーナリスト。麻布中学校・高等学校卒業、東京外国外大学英米語学科中退、上智大学外国語学部英語学科卒業。株式会社リクルートを経て独立し、数々の育児誌、教育誌の編集に関わる。心理カウンセラーの資格、中学高校の教員免許を持っており、私立小学校での教員経験もある。『開成・灘・麻布・東大寺・武蔵は転ばせて伸ばす』(祥伝社)、『地方公立名門校』(朝日新聞出版)など著書は50冊を超える。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。