みなさんがいずれ出ていく社会は、多様な人たちと関わり協働していく場でもあります。勉強は大切なことですが、勉強さえできればうまく生きていける世界ともいえません。では、そのような「生きていくために必要な力」は、いったいどう養えばいいのでしょうか。

そこで今回は、大学卒業後に財務省や大手法律事務所に勤務しただけでなく、ハーバード大学に留学するなど人生の選択を大きく変え、現在は、著作活動やコメンテーターとして活動。また、東京大学大学院に籍を置き勉強にも励む山口真由さんに、多様な社会で生きていくために必要な力について聞きました。

構成/岩川悟(slipstream) 取材・文/辻本圭介 写真/石塚雅人

「苦手なこと」を避けすぎないようにする

わたしは勉強中心の学生生活を送りましたが、中学ではソフトボール部に所属し、高校ではサッカー部のマネージャーもしていました。でも、もともとスポーツは大の苦手……。では、なぜ苦手なものにわざわざ取り組んだのかといえば、若いうちから苦手なものを避けて通るのは良くないと考えたからです。

いったんスポーツを避けてしまうと、その後の人生でスポーツと名のつくものはすべて避けてしまうでしょう。だからこそ、苦手なことをあえてやってみようと思ったのです。でも、ソフトボール部では「ライトの控えの控え」で、結果的にはスコアラーをやっていましたよ(笑)。

その経験からわかったことがあります。それは、苦手なことは思ったほど「たいしたことではない」ということ。できなければできないで、それで終わる話なのです。「ライトの控えの控えなんて……」と悩むから、どんどん辛くなるわけですね。そこで、わたしはスコアをつけながら、同時に相手チームの分析などもはじめました。与えられた場所で、チームへの貢献の仕方があることがわかったのは、わたしにとって意味のあることでした

もちろん、大人になっても「嫌だな……」と感じることはあるし、好きでなくてもやらなければならないことはたくさんあります。勉強もそうだし、日常生活でいえば歯磨きだって面倒ですよね(笑)。でも、人生は好きなことだけをやっていると希薄になっていきます。世の中には、毎日が楽しくて仕方ない大人もいるのかもしれませんが、多くの人は「嫌なこと」と「やりがい」を同時に抱えて生きています。むしろ、嫌なことがあるから、やりがいが生まれると見ることもできる。

その意味では、「嫌だな」と思うことを学生時代にやっておいたおかげで、どんな状況でも「自分が貢献できること」を探していける姿勢が身についたのは、長い目で見てとても助けになりました。結局のところ、たとえ勉強や仕事が嫌になっても、自分で「これ」と決めたら後はもう繰り返すしかありません。そのうち、それをやらないと気持ち悪くなる自分に気づくはずだし、それこそが積み重ねの力なのです

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自分とちがう世代の人と関わることで、コミュニケーション力が養われる

このような「生きていくために必要な力」は、さまざまな機会で育むことができます。たとえば、自分とちがう世代の人と話すことで、コミュニケーション能力や「人間力」を高めることができるでしょう。人と話をするとき、仲間うちではすでに共通の前提があるため、多少話を飛ばしても支障をきたしません。相手がどんな背景や知識を持っているかを考えなくてもいいので、適当に話しても通じてしまいます。でも、年齢や価値観や知識がちがう人とでは、同じようにはいかないのが現実。そして、そんな多様な他者と関わっていくのが、いずれみなさんが出ていく社会なのです

かくいうわたしも、社会人になって困ったのは、他者が「この世界をどう見ているか」に思いが至らずに自分勝手に振る舞ってしまい、失敗を重ねたことでした。日常的なコミュニケーションはもとより、仕事を通したやり取りでも難しいことがたくさんありましたね。たとえば、日本の法律についてアメリカ人に説明することはとても難しい。なぜなら、わたしたちはシビル・ロー(※1)の国であり、コモン・ロー(※2)の国とは根本的に価値観がちがうからです。自分たちの価値観を前提にして「わたしはこう考える」と主張しても、相手がポカンとした顔をすることもしばしばでした。

(※1)大陸法ともいう。ドイツ・フランスを中心とするヨーロッパ大陸諸国の法で、成文法主義を特色とする。
(※2)英米法ともいう。イギリス法およびアメリカ法の総称。判例法・慣習法を中心とする。

要するに、「相手の視点や立場からこの世界はどう見えているのだろう」と想像し続けることが、社会に出てからはとても大切だということです。でも、そんな力は一昼夜には身につきません。だからこそ学生時代から、親戚でも部活の先生でも、地域社会でもいいので、ちがう世代や価値観を持つ人とコミュニケーションする体験が重要なのです。

もちろん、本を読むのも貴重な経験になりますよね。わたしは黒人女流作家が好きで、高校時代は試験が終わるとよく一気読みをしていました。なかでも、トニ・モリスンの『ビラヴド』や、アリス・ウォーカーの『カラー・パープル』といった、虐げられた黒人女性の生きざまを描いた作品を通じて、「こんな世界観のなかで生きている人がいるんだ」と自分とは異なる立場を追体験できました。

加えて、両親の影響もあるかもしれません。よく話をする両親だったので、小さいころから「自分のことはきちんと話をして説明するものだ」と思っていました。「今日はこんなことがあって、わたしはこう考えて、こんなことをしたよ」と、言葉で伝えなければいけないと自然に思っていたのです。そして、うまく言葉が出てこないときは、「辞書を引きなさい」と教えられました。すると、「わからなければ辞書で調べるんだ」と知ることになります。このようにして、他者とコミュニケーションする力を少しずつ育んでいたのだと思います。

社会で生き抜くために、勉強はコストパフォーマンスがいい方法

そんな両親は、わたしに「勉強しろ」とはいいませんでした。小学生のときは「宿題はやったの?」とよくいわれていましたが、中学生になったときにそれがピタリと止んだのです。そのとき、「わたしの将来はわたししか気にしてないのかも……」と感じて、そこから自分の将来の目標を定め、それに向けて真剣に勉強するようになったのです

その意味では、学生時代の「将来の目標」は重要なことだといえます。目標をしっかり持っていると、勉強を続けるための力になるからです。そして、ここでぜひみなさんに伝えたいことがあります。それは、たとえその目標に勉強が必要なさそうに思えても、勉強はしておいたほうがいいということ。

勉強の良いところは、やったぶんだけ活躍できる場所が用意されていることです。たとえば、音楽やスポーツなどは、プロとして稼いで裕福に生活していけるのは上位5%程度の厳しい世界です。でも、勉強は活躍できる裾野が広く、勉強さえしていればがんばったぶんだけなにかが確実に手に入ります。たとえ勉強で上位5%に入れなくても、勉強したことが無駄になることはないのです。社会で生き抜いていくために、勉強はじつはものすごくコストパフォーマンスがいい方法だと見ることができます。

「人と話し、適切に質問する力」は、勉強を通じて育むことができる

さて、もう一度コミュニケーション力についての話に戻します。「コミュニケーション力が大事だ」といっても、学生時代には一見無駄なように思えるかもしれません。しかし、社会に出てからじわじわと効いてくることを、わたしは強く実感しています。社会では、「いま相手がどう考えているのか」「自分は全体のなかでどんな役割を求められているのか」といったことを考える機会が増えるので、学生時代には無駄な努力だと感じても、長期的には必ず回収されていくはずです

ちょっとした話ができる能力も役に立つので、やはり世代がちがう人とコミュニケーションするなどの寄り道は大切。わたしは、いまでもレセプションや立食パーティーなど、多くの人が集まって次々と会話するような場が苦手ですが、それらが上手な人は本当に上手なのです。生まれつきの性格や資質もあるかもしれませんが、早いうちから避けずに少しずつ慣れていくことで、そうした力は養っていけるでしょう。

しっかり会話ができると、将来の可能性は俄然広がります。じつは、東大生でも人前で話せない人はたくさんいました。ただ、わたしは「勉強ができる=コミュニケーションが苦手」とは考えていません。コミュニケーション能力は、勉強をしていくなかでも身につく力だと思うのです。たとえば、人の話をよく聞いて、それに対して適切に質問できることは重要な「能力」です。勉強で得た知識があれば相手の話に対する理解力が上がり、相手の考え方や価値観に対して柔軟な姿勢を併せ持つことで、コミュニケーション力は格段に上がります。自分の意見をただ伝えるだけでは、コミュニケーションにはなりませんからね。

わたしも最近になって、ようやく自分が幅広く勉強してきたことをコミュニケーションに活かせるようになってきました。勉強したときはただの知識でも、勉強以外に役立たせる場面は本当にたくさんあると実感しているところです。人はひとりでは生きていけないし、社会は人間関係で成り立っています。本当に嫌なことならやらなくてもいいのですが、孤高の天才でもない限りは……(笑)、勉強以外の力も少しずつ磨いておくことをぜひ意識してみてください。

【山口真由さん ほかのインタビュー記事はこちら】
最速で確実に結果がついてくる「7回読み」勉強法
学力向上は生活習慣の確立と時間の使い方で勝負が決まる
仕事で大きな成果を導く「俯瞰力」
「時間を決めて繰り返す」に尽きる。勉強を“あたりまえ”にする大切な習慣

『東大首席・ハーバード卒NY州弁護士と母が教える 合格習慣55: 家庭でできる最難関突破の地頭づくり』

山口真由 著

学研プラス (2018)

【プロフィール】
山口真由(やまぐち・まゆ)
東京大学法学部在学中3年次に司法試験、翌年には国家公務員Ⅰ種に合格。学業成績は在学中4年間を通じて「オール優」で4年次には総長賞も受ける。2006年4月に財務省に入省し、主税局に配属。08年に退職し、09年から15年まで大手法律事務所に勤務し企業法務に従事。15年から1年間ハーバード・ロースクールへの留学、修了し、ニューヨーク州弁護士資格も取得。現在は、テレビのコメンテーターや執筆でも活躍している。著書に『東大主席が教える超速「7回読み」勉強法』、『東大主席が教える「間違えない」思考法』(以上PHP研究所)、『リベラルという病』(新潮社)、『東大首席・ハーバード卒NY州弁護士と母が教える 合格習慣55:家庭でできる最難関突破の地頭づくり』(学研)など多数。