もともと東大合格実績が際立っている北陸3県のひとつ、富山県にある片山学園が注目を集めています。今年で高校開設からまだ11年目。にもかかわらず、今春の大学受験では東大理科三類に2名が合格を果たすなど抜群の合格実績を誇ります。その秘訣はどこにあるのでしょうか。

『危ない大学・消える大学』(エール出版社)などの著書でおなじみの経済評論家・島野清志(しまの・きよし)さんに話を聞いてみました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS)

かつてのマンモス私立校とは異なる新しいタイプの進学校

片山学園、すごいですね。それほど有名ではない学校がいきなり東大合格者を出すということはそんなに珍しいことではありません。でも、それを続けることが難しい。伝統がない学校の場合、出来不出来の差が激しいことが多く、ある年の合格実績は良くても翌年にはさっぱり……ということもあるからです。

でも、片山学園は、毎年、東大合格者を出すなど難関大合格実績が安定しています。2018年は理科三類を含む東大合格者が3人、京大合格者もひとり出しています。1学年の生徒数は100人くらいですから、比率でいえば相当高いものです。しかも、高校は2008年に開設されたばかりというではありませんか。まさに、注目の新星ですね。

新星という言葉を使ったとおり、片山学園は新しいタイプの学校と言えるでしょう。かつての私立校というのは、膨大な数の生徒を集めていました。1学年の生徒数が1000人にもなる学校もあったほどです。そうすると、なかには飛び抜けて優秀な生徒もいて、彼らをビシバシと鍛えるというスタイルが以前の私立校の主流でした。

でも、片山学園の場合は少人数制いま、大学進学実績をどんどん上げている都立の中高一貫校とスタイルが似ています。とはいえ、失礼ながら、片山学園があるのはかなりの田舎ですよね。そういう田舎でここまでの実績を残しているのはすごいことだと思います。

また、少人数制のほか、学習塾が設立した学校であるということも大きな特徴です。有名な進学校というのは、もとをたどれば学習塾や予備校からはじまっているところも多いですから、決して珍しいことではありません。

ただ、多くの学習塾でおこなわれる長時間授業によるいわゆる詰め込み式を片山学園では数年前から排除しているという特徴があります。スポーツなど部活動にも力を入れている。陸上部や弓道部、吹奏楽部は全国大会にも出場しています。また、教え方にも工夫をして、生徒自身に考えさせるやり方をしている。これは本当にいいことなんです。というのも、かつてスパルタ式だった学校の多くは没落していますからね。

東京でいえば、一時はいわゆる御三家に並ぶのではないかと言われていたある学校がその典型。わたしの先輩にもその学校に進学した人がいましたが、あまりのスパルタ式教育にちょっとおかしくなっちゃって、結局、都立高に編入しました。そういう教育はいまの子どもたちには合わないのでしょう。その学校はいまもある程度上位にいますが、一時と比べるとすっかり凋落してしまいました。

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県内トップの公立進学校と競い合うこれからが勝負

逆に、東京近郊で最後に台頭した進学校が渋谷教育学園です。渋谷教育学園幕張は1983年の設立。最初はぱっとしませんでしたが、じわじわと実績をつくって、いまやトップクラス。推測ではありますが、それを片山学園はある程度モデルにしたのではないでしょうか。縛りが少ない、自由なところをうまく取り入れたのだと思います。

自由度が高くて、体育会系の部活に限らず、映画研究会や軽音楽部といったものなど、評判のいい進学校には授業以外の活動が活発なところが多いのです。つまり、オンとオフをしっかりわけているということ。こういう面は、なにもその学校に通っていなくても、一般の高校生や受験生でも取り入れられることだと思います。

オンとオフのメリハリをつける、勉強するときには勉強を楽しむといってもなかなかできるものではありませんが、そういうふうに自分を仕向けることはできるはずです。ずっとオンが続くスパルタ式では駄目なんですね。企業でいうところのブラック企業では駄目だということです。

そういう意味で、片山学園以外でわたしが注目しているのは、先に少しお伝えしましたが、小石川や両国といった都立の中高一貫校です。公立校ですから、私立校のように1年早く授業を進めるようなことはしません。つまり、スパルタではないということです。そして、学費の面でも私立高のように負担は大きくない。そういう環境において、6年間一貫で教育できるのは学力を伸ばすという点で強いのです。麻布や開成のような学校を目指す層は別としても、それに続く層は都立の中高一貫校に流れているのが現状です。

そういう時代の流れもあって、これからの私立校は大変だと思いますよ。1990年代には、ラ・サール学園や桐蔭学園など、戦国時代のように優秀な進学校が次々に台頭しましたが、渋谷教育学園以降、新顔が出てきていません。そういう意味でも片山学園のような学校は珍しいですね。これからのモデルケースになる可能性も十分にあるでしょう。ただ、勝負はこれから。この次のレベルとなると、県内トップの富山中部などと競い合うことになります。それら歴史ある進学校を抜き去るようなら本当に快挙ですね。

【島野清志さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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危ない大学・消える大学2019年版

島野清志

エール出版社(2018)

【プロフィール】
島野清志(しまの・きよし)
1960年生まれ、東京都出身。経済評論家。早稲田大学社会学部中退後、公社債新聞記者、一吉証券(現いちよし証券)経済研究所を経て1992年に独立。以降、教育をはじめ、経済、株式などについての著述、評論活動をおこなう。1993年から続く『危ない大学・消える大学』シリーズ(エール出版社)の他、『この会社が危ない』『この会社が勝つ』『就職でトクする大学・損する大学ランキング』各シリーズ(エール出版社)など著書は100冊を超える。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。