近年、石川・富山・福井の北陸3県の東大合格実績が際立っています。2012年から2016年の5年間を合算した都道府県別東大合格率では、富山が6位、石川が7位、福井が15位にランクイン。東京に隣接しているわけでもなく、全国的な有名進学校があるわけでもない北陸3県が、なぜこのような高い実績を誇るのでしょうか。

お話を聞いたのは、『危ない大学・消える大学』(エール出版社)などの著書でおなじみの経済評論家・島野清志(しまの・きよし)さん。島野さんによると、「当然のこと」だそうですが……。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS)

全国学力テストでは北陸3県は常にトップクラス

北陸3県の東大合格実績が素晴らしいということで注目が集まっているようです。ただ、わたしからすればなんら不思議なことではありません。これら3県は、文科省が小学6年生と中学3年生を対象におこなう全国学力テストでは以前から常にトップクラスだからです。2018年の同テストでは、正答率で石川がトップ。2位に秋田を挟んで、3位福井、4位富山という結果でした。つまり、もともとの素地がいいのです。

加えて、地理的な要因も考えられます。北陸は確かに東京から遠いという言い方もできるでしょう。でも、北海道や沖縄と比べるとどうですか? 東京にも、そして京大がある京都にも近いとも言えるはずです。北陸3県出身者は東京にも京都にも出やすいのです。

しかも、このエリアには旧帝大がありません。北海道だったら北海道大、東北だったら東北大といった地域の軸になる大学がない。すると、最優秀層の受験生が高い目標を設定する場合、目指すのが金沢大では物足りなくなってしまう。わたしの推測ではありますが、だからこそ、そこを突き抜けて東大を狙うということになるのではないでしょうか。

また、北陸3県の進学実績では公立校が上位に君臨していますが、これも特別に珍しいことではありません。もともと、東京や神奈川、兵庫、京都、奈良など特定の地域を除いて、ほとんどの都道府県のトップ進学校は基本的には公立校です。北海道は札幌南、宮城は仙台二高、石川は金沢泉丘、富山は富山中部、滋賀は膳所といった具合です。愛知なんて岡崎や旭丘などいくらでも優秀な公立校があります。むしろ、私立が優位なほうが例外なのです。

それにもはっきりした理由があります。公立校の場合、各都道府県に何千人といる高校の教員のうち、限られた優秀な教員をトップの進学校に集めます。言うなれば、スター教師を集める予備校と同じやり方ですよね。しかも、優秀な生徒を相手に教育するのは教員にとってもやりがいがあるし、のちのちのキャリアのことを考えてきっちり実績を上げようと教員たちのモチベーションも高い。個別に教員を集めなければならない私立校では、なかなか太刀打ちできるものではありません。

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自然豊かで厳しい風土がこつこつと努力する人間性を育む

とはいえ、これだけ狭い地域の東大合格実績が優秀であるなら、それはもう県民性というか、地域性なのでしょう。そもそも、北陸3県は裕福な家庭が多い地域です。2014年に総務省がおこなった全国消費実態調査によると、子育て世帯年収では福井が東京に次ぐ2位。富山が5位、石川が6位と続きます。収入と進学率の相関性は以前からはっきり示されていますから、北陸3県の進学実績が高いのは当然と言えます。

それでいて、東京のように常にどこかで大規模な再開発が進められ、誘惑の多い繁華街に囲まれた地域ではありません。昭和のいいところが残されていて、自然が豊かで浮ついたところがないために、素直に勉強に臨むことができるのでしょう。なにより、雪深い厳しい風土のなかで、一生懸命にこつこつと努力する人間性が培われているのだと思います。

少しおもしろい話を聞いたことがあります。じつは、東京の銭湯の経営者には北陸出身者が多いというのです。東京の銭湯の初代経営者の場合、石川、富山、それから隣接する新潟の出身者を合わせると、全体の7、8割にものぼったとか。朝から晩まで働かなければならない銭湯の経営は本当にハードワークですよね。

それから、有名な富山の薬売りもハードな仕事です。そういったきつい仕事をいとわず、努力できる人が多いのでしょう。わたしが証券会社に勤めていた頃の同僚にも北陸出身の人が何人かいましたが、不真面目な人はひとりもいませんでした

先にお伝えした子育て世帯年収のほか、小学生の新聞購読率や朝食を取る子どもの割合の高さといった生活習慣の良さなど、北陸3県の進学率の高さにつながる要因にはさまざまなものが考えられます。でも、結局は、目標に向かってこつこつと努力できる人間を地域が育んでいる――それに尽きるのではないでしょうか。

【島野清志さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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危ない大学・消える大学2019年版

島野清志

エール出版社(2018)

【プロフィール】
島野清志(しまの・きよし)
1960年生まれ、東京都出身。経済評論家。早稲田大学社会学部中退後、公社債新聞記者、一吉証券(現いちよし証券)経済研究所を経て1992年に独立。以降、教育をはじめ、経済、株式などについての著述、評論活動をおこなう。1993年から続く『危ない大学・消える大学』シリーズ(エール出版社)の他、『この会社が危ない』『この会社が勝つ』『就職でトクする大学・損する大学ランキング』各シリーズ(エール出版社)など著書は100冊を超える。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。